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Keywords: 地形学, GIS, 水系密度, 起伏, 斜面傾斜, DEM

DEMを用いた流域の水系網の解析

研究背景

水系は地形と水文過程の重要な基本単位であり、水系の構造や発達に関する研究も多数行われてきたが、様々な発達段階にある水系の特徴を詳しく比較検討した事例は少ない.この理由として、野外で取得可能なデータの量が限られていることと、一般的な解像度のDEMや地形図では、侵食の初期段階にある微細な水系を抽出することが困難なことが挙げられる.


Fig. 1. One of the study areas: Aka-Kuzure Landslide in the Southern Japanese Alps.

そのため、本研究では、水路の形成開始時期が大きく異なる有珠山の山頂付近、草津白根山の山頂付近、および南アルプスの大規模崩壊地である赤崩(Fig.1)を取り上げ、デジタル空中写真測量を用いて水平解像度1mのDEMを作成し、詳細な水系解析を行った.さらに、丘陵〜山地に位置する一般的な流域も取り上げ、等高線データ等から作成した水平解像度10mのDEMを活用し、より広域的な検討を行った.

解像度1 m のDEM の作成

縮尺1:8000のステレオ空中写真とデジタル写真測量ワークステーションを用いて、解像度1mのDEMとオルソ画像を作成した.地表面コントロールポイントの空中三角補正を行った結果、高さ方向の誤差は有珠山では1m未満となった.


Fig.2. Extracted stream-net and subwatersheds in the Aka-Kuzure area.

水系網の抽出と解析

DEMとオルソ空中写真を用いて、支流域と水系を抽出した(Fig.2).その上、水系密度やホートンの分岐比・流路長比などの水系特性を支流域ごとに算出した.さらに、各支流域を細かく分割して局所的な水系密度を算出し、その地点における地表の傾斜および流域内における相対高度との関係を検討した.

水系密度と傾斜との関係

既存研究では、地表流の作用が活発な流域では、水系密度と傾斜は正の相関を持ち、マス・ムーブメントが活発な流域では、両者は負の相関を持つとまとめられている.しかし、これとは異なる事例が本研究では多数認められた.特に、従来ほとんど指摘がなかった凸型の関係が多く存在することが判明し、非線形の関係に注目すべきことが示唆された(e.g., Fig.3).また、マス・ムーブメントが活発な塩尻地域の高起伏の支流域では、正の相関が頻繁に見られた.


Fig.3. Relationships between drainage density and slope angle in the Aka-Kuzure area. (A) An example of the negative correlation; (B) An example of the convex form correlation; (C) Trend lines of the negative correlation; (D) Trend lines of the convex form correlation.

1−mDEMの植生を欠く地域では、水系密度と傾斜との関係が水系の発達段階に応じて変わることが示された.また、各地域内での水系の発達段階は、本流に対する支流域の相対的な位置に応じて変化する場合が多い.10−mDEMの一般的な流域では、水系密度と傾斜との関係が地域の起伏と比較的単純な対応を示した.このようなDEMの解像度に対応した地形の特徴の相違は、1-m DEMを取得した地域には初期段階の水系が含まれることと、DEMの解像度が高くなるとローカルな要因が抽出されやすいことを反映すると考えられる.

参考文献

  • Lin, Z. and Oguchi, T. (2004): Drainage density, slope angle, and relative basin position in Japanese bare lands from high-resolution DEMs. Geomorphology, 63, 159-173.
(林 舟)

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created on 2006/5/31