滝は世間一般にもよく知られた地形である。しかし意外なことに,滝を学術的な研究対象とされた例は少なく,地形学的にも未知な部分が多く残る。そのためか,滝に関して世間的には誤解されていることが多い。たとえば,「滝は普通,断層運動によって生じる。」などという説明は大きな誤解のひとつであり,依然広く浸透したままである。また,日本の滝云々といった類の本に記された「滝の成因」などの項でも,科学的根拠の乏しい説明が目立つ。さらに,滝の前にある説明板などに記載されている情報(特に滝の高さなど)は,実は当てにならないものが多い。
ナイアガラ滝(カナダ・アメリカ国境)でよく知られているように,滝は侵食されるにつれて上流方向へ移動,すなわち「後退」することがある。これは日本の滝についても同様で,華厳滝,称名滝など,一見まったく変化していないように見える滝も,数千年,数万年という時間スケールでは何m,何kmもその位置を変えてきたことが,地質学的・地形学的証拠から判明している。また,こうした長期的な時間スケールでの中では,滝の後退速度は河川による岩盤侵食作用の中でも特に大きく,滝は非常に重要な地形なのである。
これまでの研究では,まず,既知の段丘面形成年代や火山噴出物の年代と,後退の開始地点を海食崖,河川の合流点などから推定することにより,滝がどれほどの速さで後退しているのかの推定方法をいくつか提案した。一方で,岩石物性・流域特性・気候・滝の規模の各主要パラメータから,物理的考察に基づいて次元解析し,無次元パラメータを導いた。これらのデータから,後退速度を予察する経験式を導いた。現在,より多様な地域における滝のデータ収集と,後退速度予察式の適用が進められている。
房総半島, 華厳滝(日光), Poudre Falls (Colorado Front Range, USA), 集集地震の滝(台湾), 称名滝(立山)など